このたびの東北太平洋沖地震によって地殻変動が起き、我々が生活する地面、地盤に大きな移動があったことが、国土地理院の電子基準点の動きによりわかった。
 この地殻変動は、土地と土地の「境界」にも影響を及ぼすものであり、我々、土地家屋調査士が業務で取り扱うのも「土地の境界」である。
 被災地の復旧・復興を進める上で境界は重要であり、不明な場合は「境界復元」が必要である。この測量を行うにあたり、地殻変動の影響を把握する必要があるものと考え、当協会では沿岸部の「登記基準点」114点の移動量観測・解析を行った。

◇期間
 平成23年5月13日〜14日、6月3日〜4日

◇目的(内容文書
 ・地殻変動による登記基準点の移動量の調査・分析
 ・地震前と地震後における登記基準点の相対的位置関係の考察

◇観測方法
 GPS測量機を使用し短縮スタティック(15秒エポック)による60分間観測

◇考察
 解析結果より、以下の資料1と資料2を作成した。
   資料1  水平ベクトル図(507101固定)
   資料2  地震前後における点間距離の比較
        @洋野町  A久慈市  B野田村・普代村  C田野畑村・岩泉町
        D宮古市  E山田町・大槌町  F釜石市  G大船渡市・陸前高田市

 資料1は、1級登記基準点507101(洋野町)を固定した場合の水平ベクトル(注1)を図にしたものである。震源地の方向にベクトルが向いており、震源地に近いほどベクトルが大きくなっている。
(注1)水平ベクトルとは、水平方向の移動の大きさと向きの量

 資料2は、地震前後における登記基準点の点間距離を比較し、市町村単位でまとめたものである。沿岸部全域において、共通する項目は次のとおりである。
 共通項目
  @ 震源地の方向(東南東方向)に点間距離が伸びている。
  A 震源地の方向(東南東方向)に対して垂直方向に点間距離が縮んでいる。
  B 震源地に近いほど、点間距離の差が大きくなっている。
 ここで、洋野町から岩泉町までを沿岸北部、宮古市から陸前高田市までを沿岸南部として考察する。

1.沿岸北部
 沿岸北部における1km当たりの地震前後の距離差の最大値は岩泉町の19mm(岩泉1〜483102)であるが、相対的位置関係に影響を及ぼす数値ではない。また、共通項目Bのとおり、震源地に近いほど距離差は大きくなっているが、その変化はほぼ一定であり、沿岸北部全域において登記基準点の配点密度における相対的位置関係は崩れていないと考察する。
 ただし、津波の被害があった海岸沿いや地盤の緩い場所では、局部的に位置関係がずれている可能性に留意する必要がある。

2.沿岸南部
 沿岸南部における1km当たりの地震前後の距離差を比較する上で、共通項目Bを考慮してみると、震源地方向への距離差の最大値(一部の異常値を除く)は大船渡市の47mm(203101〜2032008)であるが、同位置から同方向への距離差は46mm(2032008〜20301)、44mm(20301〜203104)で、一律であるといえる(資料2−G)。震源地に近いため沿岸北部に比べると差が大きいが、相対的位置関係を崩す値ではないと考察した。
 しかし、沿岸南部における1km当たりの地震前後の距離差の最大値は釜石市の135mm(211103〜21101)であり(資料2−F)、このように周囲の距離差から逸脱する値となっている場所が数箇所みられた。また、共通項目Aに反して距離差に伸びがみられる箇所もあることから、場所によっては相対的位置関係が崩れていることがわかった。このような場所では、さらに局部での観測により、原因を究明し位置を特定する必要がある。

◇まとめ
 考察により、相対的位置関係にあると推察できる場所において、登記基準点からの「境界復元」はいくつかの点に留意すれば問題がない、ということがわかった。
 この「境界復元」を行う際に、資料となる地図や地積測量図は、地震前の成果である。そのため、地震の前後のデータを有する登記基準点が、大きな役割を果たし得るものである。
 また、場所によって相対的位置関係が崩れている、ということが実証されたことも大きな成果であった。考察末尾に記載したとおり、このような場所では、さらに局部での観測をする等の措置を講じる必要がある。
 当協会では、今回観測に使用した0級、1級、2級登記基準点の他に、3級登記基準点を設置しており、「境界復元」をする上で3級登記基準点が局部的な観測に有益であると思料する。

 平成23年5月31日に電子基準点の地震後の成果が公表されたが、当協会では10月頃に0級、1級登記基準点の改測を計画している。


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